既存のレールにとらわれない、自分に正直な生き方を見つけた

就職へのステップに漠然と大学に進学して
僕がTAFEに入ったのは大学を卒業してからなので、遅いスタートだと思われるかもしれません。でも今のクラスメイトは経歴もさまざまで、年齢も40歳位までと幅広いため、自分を特別な存在であると感じたことはまったくありません。
振り返ってみれば、高校3年生で進路を考えたときには、将来の職業などまだイメージできませんでした。ただ漠然と、就職へのステップとして大学進学を選び、目標が決まっていないなりに、将来の可能性を狭めない選択をしておこうと、理工学部の経営システム工学科に入学しました。授業は真面目に出席していましたし、あたり前に大学生活を過ごしていましたが、大学3年生の後半になっていわゆる“就活シーズン”を迎えた時ですら、自分が働いているイメージを頭の中に思い浮かべることができませんでした。理工学部において大学院に進むというのはよくある話なのでしたが、自分の中では当時の専攻から大学院に進む意味が見出せませんでした。学ぶなら、今の自分が最も関心のあることを学ぶべきだと思ったのです。それが、オーストラリアのTAFEで「ランドスケープ(景観学)」を専攻するという選択でした。
きっかけは、ヨーロッパへのサッカー観戦の旅
ランドスケープとは、建物や庭、広くは公園から都市計画までを、美観という面からとらえる学問です。対象となるものは建築、土木をはじめ法律、経済、文化などさまざまな観点からもアプローチされています。僕がランドスケープに興味を持ったのは、大学の他学科履修で選択して、こういう学問があるのかと関心を持ったことと、サッカー好きが高じてヨーロッパに旅行し、歴史ある美しい街並みにふれてカルチャーショックを受けたことがきっかけです。
TAFEは、2年間という短期間でランドスケープの実務的な知識と技術を身に付けられるところが、僕にとって日本の大学院に行くより魅力的でした。そして、そのころの旅行や海外の論文を見ることも手伝って、英語を使えることのメリットは、使えないことのデメリットに比べて絶対値が大きいものだという考えを自分の中で持つようになりました。
専門分野と英語を一緒に学べるのがTAFE
TAFEに入ってまず感じたのは、どの学生も目的意識を持って学びに来ていることです。先生もそれに応えて、クラスは自ずと活気に溢れています。授業も適度に多く、週最低18時間あるので、言葉の壁と格闘しながらも、話を集中して聞いたり、自分から意見を述べたりする中で、自然に英語に慣れていくことができます。外国語の習得はとにかく“慣れ”が必要だと思います。
実はTAFEに入学する前、オーストラリアのアデレードにある語学学校に半年間通ったのですが、思うような効果が上がりませんでした。いくらやっても伸び悩み、自分には英語の素質がないんじゃないかと諦めかけた時期もありました。しかし興味のあることを英語で学んでみると、ただ英語を覚えようとしていたときに比べ、吸収力が格段に違うことに自分でも驚きました。
今でも、授業や課題に取り組む英語力は十分とは言えませんが、クラスメイトに助けられています。オーストラリアは多文化が共存している社会のせいか、外国人に寛容なところがあり、TAFEのクラスメイトは皆親切です。ノートを貸してくれたり、会話をフォローしてくれたり、彼らのヘルプがあるからこそ、留学生活がやっていけると言ってもいいでしょう。また先生も、質問をすればとてもフレンドリーな対応をしてくれます。どの授業も先生との距離が近いところも、TAFEの授業が楽しい理由ですね。
変わらざるを得ない状況に自分を置いて正解
あと半年で卒業ですが、日本に戻るのはもう少し先にするつもりです。将来、日本で仕事をするうえでも、留学したというだけよりも、海外で仕事をしてきたということで、アドバンテージ(有利な立場)を得られると思うからです。
オーストラリアでは、学生が一斉に動く就活シーズンはありません。ほとんどの学生は学校に通っている間、基本的に学校を優先順位の一番に置いています(アルバイトをしても、し過ぎることはあまりないということです)。他人より偏差値の高い大学へ入り、他人よりも給料の高い会社に早く内定をもらうために競争するという社会に、みんなほど上手く適応できなかった僕は、卒業後オーストラリアの社会の中で数年間働きたいと思っています。
オーストラリアだけでなくヨーロッパやラテンの国々の人は、自分がどんなにたくさんの仕事をこなしているかよりも、どんなにゴージャスなロングホリデーをとったかを自慢するようです。日本を離れてはじめてそんな価値観があることがわかりました。今の受験制度や社会通念に逆らって自分自身を変えるのは容易ではありません。それなら、自分が求める環境に思いきって身を置いてみるのもいいと思います。それが僕にはこの留学でした。もちろん留学したからすべてが変わるというわけではありません。でも、既存のレールの上でなく、自分に正直に生きていくというささやかなプライドが、困難に立ち向かうエネルギーになっているのかもしれません。
<プロフィール>
片桐健一郎さん TAFE造園コース在学中(東京都 中央大学理工学部経営システム工学科出身)
(1)オーストラリアに留学する前の自分…外見はどこにでもいる普通の大学生。中身は内向的な人間。
(2)オーストラリアで得たもの…多様な考え方。文化的背景が違えば決して交わらない考えもあるという割りきり。
(3)オーストラリアのここが好き…都市の中に組み込まれた自然。
(4)将来の夢…世界中の歴史ある美しい街でおいしいお酒と食事を楽しむこと。





















